「女性起業家インタビュー」vol.05 株式会社大西常商店 大西里枝さん

財務省近畿財務局・京都財務事務所×ブルームマネジメントのコラボ企画、「女性起業家インタビュー」です!

プロフィール
大西里枝さん 株式会社大西常商店 4代目若女将
1990年生まれ、京都出身。
立命館大学政策科学部卒業後、一般事業会社に入社。結婚・出産を経て、家業を継ぐべく、2016年に株式会社大西常商店に入社。現在に至る。
公式ウェブサイト:大西常商店

「扇子の技術や技法を百年先の未来に残すこと」を大切にしています。

−事業内容をお聞かせください。

弊社は大正二年に創業した扇子の製造卸です。京扇子の製造は、分業体制が敷かれており、87に及ぶ工程があります。弊社は、営業・企画・資材調達の他、各工程の職人さんたちの製造工程や品質を管理する役割を担う「プロデューサー」や「ディレクター」としての役割を担っています。扇子のほかには扇子の技術を活用したルームフレグランスの開発、京町家を活用したスペースレンタル事業なども行っています。

−経営理念もお伺いしてよろしいでしょうか。

私たちの最も大切にしているのは「扇子職人の仕事を恒常的に維持できるように需要を開拓しつづけること」そして、「扇子の技術や技法を百年先の未来に残すこと」だと考えて業務に取り組んでいます。

−扇子の魅力を伝えるためにされていることは?

昔は、祝儀用、七五三用、日本舞踊用など年中売れていたのですが、現在の扇子の売上は4~7月の夏場が中心となっています。そこで、通年を通して売れるようにしたいと考えていますね。具体的には、インテリアとしても使っていただけるような、そして、手に取っていただきやすいような商品開発を行っています。また、伝統を残しつつ、最近のトレンドも入れるようにしております。例えば、アニメとコラボした上品な扇子を作ったりしていますね。

−家業を継ごうと思ったきっかけを教えてください。

前職に勤務していた時は総合職で2~3年に一度転勤があるのがあたりまえでした。婚姻届を出した2か月後に私が転勤になり別居になり、妊娠中も離れて暮らしており、精神的にとてもしんどかったのを思い出します。

育休中は京都の実家に身を寄せていたのですが、その時に実家の商売を見聞きするようになり、「もうちょっとやり方を工夫すれば、良い方向に向くのでは?」と思い、退職を決意して、家業に入りました。正直なところ、やっぱり夫婦で転勤を続けるのは難しかったですし、どこかで生活の拠点をつくりたかったというのもあります。

−売上をあげるためにされたことは?また、一番効果的だったことを教えてください。

やはり新しい商品の開発と、販路拡大のための展示会出展が一番効果的だったように思います。具体的には京都商工会議所さんが実施されている「あたらしきもの京都」というプロジェクトに参加して新商品を開発しました。インターナショナルギフトショーに共同出展した時にバイヤーさんや小売店さんとつながりができました。

−新製品扇ルームフレグランス「かざ」の開発ではクラウドファンディングなども利用されました。その動機と目標額を達成できた秘訣を教えてください。

新商品の開発を行ったはいいものの、なかなか量産化への踏ん切りがつかなかったので、テストマーケティングとしてクラウドファンディングに取り組みました。目標額の達成を目指すために、SNSを活用しました。目標額が達成できたのは、拡散をしていただいた皆さんのおかげだと思っています。クラウドファンディングは、仮に失敗しても特段のデメリットはありませんし、ファンになってくださるお客様も増えるというメリットも大きいので、これからも活用していきたいと思っています。

−テストマーケティングとファンの獲得ですか。

はい。クラウドファンディングで使ってみて、自分では思ってもみない売れ方もしました。色合いが人気アニメの刀剣乱舞のキャラクターの衣裳に似ているということでSNSを中心に評判を呼びました。見えていなかったお客さんが見える機会になったなと思っています。

−貴社のSDGsへの取り組みを教えてください。

扇子は紙と竹、要(かなめ)というシンプルな素材でできています。要の素材も色々ありますが、弊社ではなるべくセルロースという炭水化物の一種で作るようにしています。土に還る素材で商品を製造しているというところでしょうか。また、弊社では一本の扇子を長く使っていただけるよう、一部の修理は無償で行っています。

−事業を継がれて、辛かったことや予想外のトラブルを聞かせてください。また、それをどのように乗り越えましたか。

ルームフレグランスを開発した時に、お客様のお宅で香料漏れが発生したことがありました。おわびに行ったときは辛かったです。

前職時代にクレームなどに対応する部署でしたが、その時よりもよっぽど辛かったです。 原因は磁器の焼成不足でした。京都市産業技術研究所の協力のもと原因を特定して、対応方針の策定など再発防止に向けてその後の対応を行いました。お客様にもご納得いただけて、また購入します!といっていただけてよかったです。

−謝罪は成長のチャンスだったともいえますね。

はい。その後も色々なトラブルがありましたが、この時の対応経験が活きているような気がします。

−扇子の製造は分業と伺いました。各工程の職人さんとのコミュニケーションで注意されていることはありますか。

可愛がってもらうことに尽きます。また、徹底的に作業場に通っています。職人さんの多くは一人で仕事されているので話し相手になったりして、コミュニケーションを図っていますね。

−女性起業家賞などコンテストでの受賞歴もある里枝さん。コンテストに出てみようと思ったきっかけと出て良かったことを教えてください。

私はとにかく小心者で自信がないので、自分の事業案を人に相談したり、講評される機会を求めていた、というのがきっかけです。正直なところ、コンテストにエントリーしたはいいものの、自分で事業内容を深堀していく中で、「あ、やっぱりこのプランはなんかやめといたほうがいい気がする」っていうこともよくあります(笑)。

そういう意味でも、事業を始める前の燃え上がるアツいやる気で進む前に、きちんと冷静な目を持って物事を判断できるというのがよかったことだと思います。

−コンテストに出ることで名前や顔も覚えてもらえますしね。

そうですね。顔を覚えてもらうことは大事だと思います。扇子の業界で覚えてもらえたら勝ちだなと。

−起業する前にやっておくべきことはありますか。

先ほどのコンテストもそうなのですが、自分の事業イメージをいろんな方に説明するのがいいかなと思います。より分かりやすくするために、ワンペーパーで纏めてもいいかもしれません。自分が思い込んでいたりすることもありますし、気付かなかった視点を教えてもらえるきっかけになると思います。

ブルームマネジメントさんのような専門家のみなさんや、商工会議所さんに事前に相談されることをおすすめします。

−確かに専門家の視点は新たな気づきにもつながりますよね。

はい。餅は餅屋ということわざがありますが、まさにその通りだと思います。私も事業をしている中で、いろんなしんどいトラブルもありましたが、結局解決してくれたのはプロでした。自分で色々考えるのもよいですが、早い段階で頭出しの相談をするということができれば、すごくスムーズに進むんだなあと思っています。

伊藤先生にはコンテストの際相談させていただきましたが、目から鱗が落ちるような感覚を今でも覚えています。こういった相談事は同性の先生方だと相談しやすいですよね。かっこつけてるわけでないんですが、わたしは異性の先生だとちょっと本音を出さずに、おそるおそる様子をみながらすすめてしまうところがあります。(笑)

−これからの時代に、起業家を目指す女性にメッセージをお願いします!

「起業」と聞いてベンチャーや敏腕経営者を想像して面食らう方が多いかもしれません。女性起業家の記事をみて、「私にはこんなことできない」と一歩前に踏み出せない方もいらっしゃると思います。

そんな大仰なことではなく、「起業」はライフイベントを大切にしながらも、自分らしく仕事を続けるひとつの手段だと思います。大変な思いをすることもありますし、失敗したらどうしよう、と悩むこともありますが、 事業に失敗しても命を奪われるわけではありません。自分らしく働く選択肢のひとつとして起業を検討してみてください。 

大西さんに一問一答

経営する上で一番大切なことは?
どんなときも可能性を探すこと、客観的に判断すること

座右の銘
人生万事塞翁が馬

京都のおすすめスポット
岡崎 京セラ美術館

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扇子は上品な自分を演出するアイテムです!これからも気持ちがふっとあがるような商品を作っていきたいです。

(聞き手:近畿財務局京都財務事務所 井上氏、田原氏、佐々木氏、中島氏、ブルームマネジメント 伊藤

京扇子 製造・卸 大西常商店
公式ウェブサイト:株式会社大西常商店