こんにちは、クロスオーバーネットワークの八木香織です。今回のテーマは、人を雇おう!シリーズ第二弾です。
人を雇おう第一弾で、最近は正社員とアルバイトだけでなく、契約社員や限定社員などと呼ばれる様々な雇用形態が採られるようになってきていることをお話しました。そのような中で、「採用時には言われていない業務をさせられた」「転勤はないと言っていたのに」「一方的に解雇された」など多くの労務トラブルが起こっています。
このようなトラブルが起こらないために、また起こった時に速やかに解決するためには、人を雇うときにしっかりとした雇用契約書を作成しておくことが必要となります。
そこで今回は、雇用契約書を作成するときのポイントについてお話していきます。
雇用契約書はなぜ必要?
人を雇うとき、雇用契約書を必ず作成しなければならないというわけではありません。労働条件の最低基準を定めた代表的な法律である労働基準法では、従業員を採用する際には、主要な労働条件を明示した「労働条件通知書」を従業員に交付すれば足りるとされています。
しかし、後日のトラブル防ぐためには、その条件で双方が合意したことを明確にするために「雇用契約書」を作成することが大切になります。
雇用契約書の記載事項には、雇用契約書に必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」と、当該条件を定めた場合には明示しなければならない「相対的明示事項」があります。
以下、「絶対的明示事項」を中心にお話します。
絶対的明示事項
絶対的明示事項は次の6項目となります。
(1) 労働契約の期間
期間の定めがある場合は必ず契約期間を記載します。期間の定めがある契約の場合、原則
3年を超える期間を定めることはできません。また、試用期間を設ける場合は、その期間を記載します。
(2) 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
期間の定めのある雇用契約の更新する際の基準を記載する必要があります。例えば、業務能力や成績が良好なこと、会社の経営状況が良好であることなどを記載します。
(3) 就業の場所、従事すべき業務
転勤や配置転換の可能性がある場合は、その旨も記載します。
(4) 始業・就業時間、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、終業時転換
所定労働時間は、原則一日8時間以内、週40時間以内と定められています。
休憩時間は、6時間を超える時は少なくとも45分、8時間を超える時は少なくとも1時間の休憩時間を定めなければなりません。
また休日については、労働基準法では毎週1回以上もしくは4週間で4日以上と定められていますが、1週間の法定労働時間40時間までという枠を考慮して休日設定する必要があります。
時間外労働や休日労働がある場合、また就業時間・休憩時間等を変更する可能性がある場合は、その旨も記載します。
(5) 賃金(退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金締切り及び支払時期、昇給
給料の額、割増賃金率、締切日、支払日を記載します。
なお、中小事業主の事業の場合、時間外労働・深夜労働については2割5分以上、休日労働については3割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。
(6) 退職(解雇の事由を含む)
例えば、雇用期間の定めのない場合は、定年60歳の誕生日の翌日、雇用期間の定めのある場合は、期日到来日、などと記載します。
解雇の事由は、例えば、解雇の事由は就業規則による、と記載し、就業規則に定めるのが一般的ですが、就業規則がない場合には具体的に記載することが必要です。
相対的明示事項
以下の相対的明示事項については、当該条件を定めた場合定めた場合には明示しなければなりません。相対的明示事項は、法律上は口頭による明示でもかまわないとされていますが、一般的には書面で明示されます。
(7) 臨時に支払われる賃金、賞与等
賞与について定めがある場合に記載します。
(8) 退職手当
(9) 労働者に負担させる食費、作業用品等
(10)安全及び衛生
(11)職業訓練
(12)災害補償及び業務外の傷病扶助
(13)表彰及び制裁
(14)休職
まとめ
注意すべきことは、たとえ雇用契約書を作成し、労使双方が合意しても、労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定めると、その労働契約は無効になってしまいます。また、明示すべきことを記載しても、その内容が実態と違っていた場合、労働者はただちに契約を解除することができることも定められています。
最後に、労務トラブルは、その従業員だけでなく全従業員の労働意欲を低下させてしまいます。優秀な人材を確保するためにも、活気のある職場環境を整えるためにも、まず、しっかりとした雇用契約書を作成する必要があります。
今回は雇用契約書についてお話しましたが、労働契約に関する事項を定めるものとして、雇用契約書以外に、就業規則があります。就業規則については次の機会にお話します。
弁護士 八木香織