「特許、商標権、意匠権、実用新案権を取るにはどうしたらよいの?」(弁理士・竹口美穂)

こんにちは!弁理士の竹口美穂(たけぐちみほ)です。
今回は、どのようにしたら産業財産権を取ることが出来るのかを、お話しをさせて頂きたいと思います。「産業財産権」は、特許、実用新案権、意匠権、商標権の4つの権利です。産業財産権は、特許庁に対して出願手続きを行い、審査を通過したものだけに、付与されます。出願書類はどのようなものなのか、どのような審査があるのかを説明させて頂きます。

 

特許と実用新案の出願書類はどんなもの?

 

特許と実用新案の出願書類は、発明・考案についての作文を記載した書類が出願書類となります。

発明の特徴や発明の良さを文章で記載した書類を出願します。「願書」、「明細書」、「請求の範囲」、「要約書」、「任意の図面」が出願書類の内訳ですが、そのうち、「請求の範囲」の記載が、審査対象となり、権利の範囲を決めるものとなります。

 

例えば、この世の中に湯呑はあるけれど、取手を付けたマグカップがなくこれを発明したと仮定しましょう。「請求の範囲」には、例えば「飲料を入れることが出来るカップと、このカップに取り付けられた取手と、を備えた取手付きカップ」等のように文章で記載します。

 

意匠の出願書類はどんなもの?~図面を作れたら。

意匠は、物品の外観のデザインなので、「願書」と「図面」が出願書類となります。

意匠は、文章ではなく「図面」で審査対象や権利の範囲が特定されます。「図面」に代えて写真や見本、小さい場合には現物を出すことも出来ます。

マグカップを作った例を先ほど記載しましたが、マグカップを図面に表したり、写真に表したりして出願書類を作成することになります。

 

なお、意匠は物品の外観なので、似たデザインであっても物品が全く違う(類似していない)と権利の範囲に入りません。従って、「願書」には、出願人を特定する情報等の他に、「意匠に係る物品」を記載する項目があります。

 

 

 

商標の出願書類はどんなもの?

 

商標は、いわゆる「ブランド」ですので、「ブランド」となる文字や図形等を記載した「願書」が出願書類となります。「商標」は、同じ文字や図形であっても、使用する商品やサービスが違う場合には、類似しない商標権となりますので、「願書」には、使用する商品やサービスを指定する欄があります。

 

 

 

特許・実用新案・意匠の審査ってどんなもの?

商標権以外の特許、実用新案、意匠は、新しく作ったものが保護されますので、新しさ(新規性)や、簡単に作れないか(進歩性・創作非容易性)が要求されます。その他にも審査項目があり、法律に明記されています。

明記されている審査項目を全てクリアしていたら、権利を付与しないといけないことになっています。もっとも、実用新案だけは、書誌的な事項等の出願形式を満たしていたら、新規性・進歩性等の実体審査がなされることなく、権利が付与されます。小発明をスピーディに保護するためです。

この様に実体審査がなされないため、実用新案権は玉石混淆で新規性等があるものもないものも含まれています。

 

従って、実用新案権を行使する際に、特許庁が発行する鑑定書のような技術評価証というものを提示して警告しなければいけないことになっており、この技術評価証によって、権利行使をされた者は、本当に新規性・進歩性等を満たしている権利かどうかを把握することが出来ます。満たしていなければ、実用新案権を無効にすることができ、実用新案権の侵害にもなりません。

 

商標の審査ってどんなもの?

商標権は、産業財産権の中で唯一、創ったものでなくても保護を受けられる権利です。このため、商標は「選択物」と言われたりします。

従って、既に世の中に公然と知られたネーミングや図形等でも商標権を取得することができます。このため、商標の審査では、特許・実用新案・意匠の審査のように、新規性や進歩性は判断されません。

 

では、どのようなことが商標では審査されるのでしょうか?商標を使用して業務を行う(例えば、美味しい料理をレストランで提供し続ける、良い商品を提供し続ける等)ことで、商標に業務上の信用が宿りますが、この業務上の信用を保護するために商標法があります。従って、例えば、指定商品を「時計」として普通名称である商標「時計」を出願する場合のように、商品やサービスに商標を使用しても、他の商品やサービスを自己の商品やサービスとを区別することが出来ないようなものは、使用しても「業務上の信用」が宿ることがないため、「識別力」がない商標として審査を通りません。

 

この様に、商標の「識別力」の有無が審査されます。また、先に出願された他人の登録商標が、自己の商標と同一・類似の場合や、他人の周知商標(有名な商標)がある場合にも、審査を通りません。この様に他人の先行商標や周知商標の有無が審査されます。勿論他にも、審査項目がありますが、全てを書くことは難しいのでここでは、理解するべき優先度の高い審査項目だけ記載します。

 

審査に通らないとどうなるの?

審査に通らないと権利を取得することが出来ず、拒絶査定というものが出てしまいます。敗者復活戦のようなものがあります。

審査は、特許庁の審査官が一人で行いますが、審査結果に不満がある場合には、拒絶査定不服審判というものを特許庁に対して請求することができます。拒絶査定不服審判では、今度は、三人の審判官のチーム(合議体)が審査官の判断が適切であったかを検討し、この結果、権利が付与されることがあります。

また、審判の結果、やはり権利にならない場合には、審決取消訴訟という裁判を裁判所に提起することができます。

 

まとめ

特許、実用新案権、意匠権、商標権を取得するためにどのような書類を準備し、どのような審査が行われるかを記載致しましたが、それぞれの権利の保護対象の違い等から準備書類が違ったり、審査内容が異なることをご理解頂けましたでしょうか?

出願される際の一助になりましたら、嬉しいです!

 

弁理士・竹口美穂