【取締役の責任とは】(八木香織)

こんにちは、クロスオーバーネットワークの八木香織です。今回は、取締役の責任についてお話します。

 

はじめに

株式会社において、取締役は株主から会社の経営を任されます。当然、多くの権限を与えられるわけですが、当然、一方で義務と責任を負うことになります。すなわち、取締役は善管注意義務、忠実義務、競業避止義務、利益相反取引回避義務を負い、そしてこれらに違反した場合には会社や第三者に対して損害賠償責任を負うことになります。

と、いきなり難しい用語を並べてしまいました。今回は、これらの義務と責任についてお話していきます。

 

善管注意義務・忠実義務

法的に、会社と取締役は委任関係にあります。そこで、取締役は会社に対して善良なる管理者としての注意を持って職務を行う義務、すなわち善管注意義務を負います。この善管注意義務とは、その者の能力に応じた注意ではなく、取締役として一般的に求められる注意をいいます。ですから、取締役は経営のプロとして当然持っている知識や判断力をもって職務を行うことが求められています。

 

さらに、この一般的義務を取締役の義務として、会社法において具体的に定められたものが忠実義務です。取締役は法令及び定款の規定ならびに株主総会の決議を遵守して、会社のために忠実に職務を行うことが求められています。

取締役は、この義務を怠って会社に損害を与えた場合には、債務不履行の一般原則により、会社に対して損害を賠償しなければなりません。

 

競業避止義務

取締役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をするには、取締役会または株主総会の承認を受けることを要します。これを競業避止義務と言います。これは、取締役は会社の業務執行に関して大きな権限を有し、企業秘密にも通じていることから定められたものです。

 

取締役がこの義務に違反し、承認なしに競業取引をした場合、会社は取締役に対して損害賠償を請求することができます。損害額がはっきりしない場合でも、取締役または第三者が競業によって得た利益が会社の損害と推定されます。

 

利益相反取引回避義務

取締役が会社の財産を譲受けまたは自己の財産を譲渡する会社より金銭の貸し付けを受けるなど、会社と取引をする場合にも取締役会または株主総会の承認を受けることを要し、これを利益相反取引回避義務といいます。

 

取締役がこれらの義務に違反して取引を行った場合、取締役の利益は、会社に与えた損害額と推定され、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。

そして、たとえ承認を得た取引であっても、会社に対して損害を与えた場合は、その取締役だけでなくその取引を承認したその他の取締役も賠償責任を負うことになります。

 

第三者に対する取締役の責任

会社が第三者に負っている債務について、取締役であるからと個人としてその債務を負うことはありません。会社と取締役は別個の存在であり、そして取締役と第三者の間には何の契約もないからです。

しかし、取締役が、会社の債務につき個人で保証している場合や取締役がその職務を行うにあたって故意または過失がある場合には、第三者に対しても損害賠償責任を負うことがあります。

 

まとめ

以上、取締役の民事上の主な責任についてみてきましたが、取締役の持つ権限や社会的な影響力の大きさから、取締役の特別背任罪や会社財産を危うくする罪といった刑事罰も存在します。

個人で事業を行うことと比べて、会社組織で企業を行うことには、融資の面や取引の面等で様々なメリットがあります。しかし、そのメリットは、このような義務と責任を負うことにより与えられているのです。

 

弁護士 八木香織