財務省近畿財務局・京都財務事務所×ブルームマネジメントのコラボ企画、「女性起業家インタビュー」です!

プロフィール
関恵さん
株式会社発酵食堂カモシカ 代表取締役
北海道大学経済学部、スウェーデンのヨーテボリー大学政治経済学部に留学後、国際医療福祉大学にて修士課程を修める。IBMビジネスコンサルティングサービスを経て、医療系コンサルティング会社へ。2014年、株式会社発酵食堂カモシカを起業。「命は命で元気になる。~発酵食を台所に取り戻す♪」を事業メッセージに、発酵食品の製造販売事業、飲食事業、ワークショップ事業を展開。
第3回京都女性起業家賞最優秀賞受賞(2015)、
第12回文化ベンチャーコンピティションin Kyoto 最優秀賞受賞(2019年)
第4回京都市「これからの1000年を紡ぐ企業」認定(2019年)
知恵-1グランプリ受賞(2023年)
公式ウェブサイト:発酵食堂カモシカ
仕事は如何に価値を生むか。その価値は具体的なお客様の行動変容に現れると考えます。
−起業のきっかけをお聞かせください。
実家が自営業だったこともあり、起業はいつか訪れる当たり前の選択だと考えていました。
−なぜ、発酵で起業しようと思ったのですか。
実家の事業が薬局だったこともあり、ヘルスケア領域に興味を持ちキャリアをスタートさせました。その時は発酵で事業を行うとは思っていなかったのですが転機が2つあります。1つ目は第一子を自然分娩で有名な愛知岡崎市の吉村医院で出産させてもらえたこと。自分の力と自然の力で「命を生み出せる」という信念と、手作りをする文化が周りのネットワークに増えていたことで、発酵という営みの面白みにハマって行きました。お味噌や梅干し、漬物などを家族に作ることから始めていました。
そして、2つ目は、第二子を自宅で産んだ直後の東日本大震災です。原発事故を3月12日にテレビで見た時に、まだ生後半年も満たない息子を西に一度逃さないといけないと家族で避難。西に車を走らせながら、「もう今までの生活に戻ることはないだろうなぁ、何か本質的なことで生きていかなくてはいけない」と強く感じたのでした。その後、京都への本格的な移住となり、本質的な領域での仕事を考えていく中で「発酵」に絞られていきました。「命は命で元気になる。」という世界観と、「発酵食を台所に取り戻す♪」というコンセプトがはっきりとしたのも2013年の起業前の年です。
また、私は祖父が丹後のお寺の住職だったこともあり、仏教思想が自分の根底にあります。発酵という世界も、確かにあるけれども目に見えないというものを信じ、自らの手間暇の後は待つしかないという側面、また味噌づくりや漬物づくりなど繰り返させる型の中で思考することなど、発酵と仏教はどこか似ているようにも感じています。

−仏教の思想は、個人だけでなく、人々のつながりや全体の調和を重視する特徴もありますものね。
そうです、菌の絶妙な調和こそが発酵の基礎となります。集合体として物事を捉える仏教の思想と発酵はよく似ています。発酵の世界は奥が深く、飽きません。一生をかけても
ずっと好きで続けられることだと感じています。
−そのような想いで「発酵食堂カモシカ」が誕生したのですね。
社名のカモシカは、醸し家、とかけあわせています。
そして発酵食堂は発酵食のお堂というイメージも重ねています。

−起業されてから、売上を上げるためにどんなことに取り組んでこられましたか?
最初は小さな12席の食堂だけでしたが、それをブランドのフラッグシップであり発酵への入口として大切にしながら、発酵に関わる事業を広げていっています。特にコロナ禍において食堂でテイクアウトや量り売りなどスタートしたり、オンラインのワークショップを始めたり、製造事業ではオリジナリティ高く理念に沿う商品へ切り替えたりと様々な取組を絶え間なく行ってきました。もともとコンサル業で仕事をしていたので、長期的にはうまくいくだろうという見通しはできていましたが、創業時は世の中的にもまだ「発酵って何?」という時期でしたし、テーマがディープなだけに大変でした。
−軌道に乗るまで時間がかかったと伺いましたが、それでも続けてこられた秘訣は何でしょうか?
自分が心から好きな領域で事業ができていること、そして本質的で未来にも価値があると信じて進めること、たくさんの人が助けてくれたことで続けて来れたと感じています。そして今もそうなのですが、2014年に個人事業主として店を立ち上げてからずっと、攻めて攻めて攻めまくっている状態です。
−創業後、辛かったことや予想外のトラブルはありましたか?
創業時、下の子が3歳で保育園児で、飲食未経験から食堂事業をスタートしました。そして途中から夫の単身赴任も重なり子育てと仕事の両立は非常に苦労をしました。一番の苦労は、やはり人の問題ですね。従業員を最初から雇ってのスタートだったために、人の退職、採用など、そのあたりのことが一番苦労しました。また、1店舗目がまだ軌道に乗っていない中で2店舗目を立ち上げたので、そこに従業員のことも重なった時は最初の試練でした。コロナ禍でいろいろ重なって、人が重なって辞めた時もカモシカ暗黒時代です…。しかし苦労も忘れ、すべては学びでありました。

−雇用の問題が辛かったこととして大きいとのこと。苦労を経験されて今はどのように工夫されていますか。
春と秋に採用説明会を始めました。お互いのミスマッチを起こさないように、カモシカのこれまでと現状と未来に目指していることを出来る限りたくさん伝えるようにしています。また働いている人の声を聞いていただいたり質疑応答できるように時間を設けたり、ポジティブな情報だけではなく、赤裸々にネガティブ情報も伝えています。例えば、これまでカモシカを退職した方のよくある理由なども公開しています。
−採用する際はどのような点を見ていますか?
スタンスとスキルで評価しています。また、採用前に「強みのカルテ」というその方の強みと現状のカモシカの全員との親和性を見る仕組みを作っています。 会社ではチームで仕事をする以上、良い意味での拮抗作用(強みのバランスと補完関係)が大切です。相反する性格や価値観、行動が互いに影響を及ぼし合う関係を指すのですが、そのためには相手の性格や強み、仕事上の役割を理解し、みんなでバランスを取ることが大事だと思います。
−人間関係における拮抗作用は、「対立」になることもあれば、「補い合う関係」になることもありますものね。
組織にとってどんな力を求めているのかを経営者自身が言語化していくことが必要だと感じていますし、それをスタッフにも伝えています。ぼんやりさせておいた方が丸く収まるかもしれませんし、厳しく指導するので離れていったスタッフもいましたが、わたしはそれで良いと信念を持っています。
−自分自身も律しなくてはいけないですね。
そうですね、いわば発酵ベンチャーと言えるので、ビジネス的な側面のスキルを磨くと共に、自分自身が一番発酵については知っているし、実践をしているという両輪が大事だと思っています。
−不安になることもありますか?
もちろんありますよ。お金や人のことで夜も眠れないことも。その中でやはり、体が資本だと実感しています。しっかり飲んで食べて、お風呂入って早めに寝る。

−起業にあたり相談相手はいましたか?ご家族の反応はどうでしたか?
夫とはコンセプト設計やどういった事業にしていくかなど、相談をたくさんしました。事業メッセージの「命は命で元気になる。」も、多くのヒアリングをしてもらってその中からヒントを得て、共に言葉作りをしました。
きつい言い方かも知れませんが、家族の説得が必要な人、反対にあう人は、起業は辞めておいた方が良いと思います。なぜなら、家族(生活)がベースにあるから。家族を説得する時間を取れるほど経営は楽じゃないです。家族(チーム)でやらないと乗り切れないと思います。
−ご主人様とは、お仕事でもパートナーでいらっしゃいますが、喧嘩をすることもありますか?
あります。なんならお酒を飲みながら喧嘩もします。お店の運営や経営はわたし、広報やコンセプトを練るのは主人と役割を分担しているのですが、方向性などについてぶつかることもあります。
−仲直りはどうされていますか?
22時以降は仕事の話をしない、と取り決めしたことです笑 特にお酒が入ってディスカッションしながら22時を超えて、良いことは1つもないとこの10年でお互いに気づきました。
−これまでご主人様と二人三脚で、数々のビジネスコンテストを受賞してこられましたよね!ズバリ入賞の秘訣は?
ブレない事業をすること、そしてそのことをどう伝わる形にして伝え続けていくかに尽きると思います。
−今後は、どのように想いを届けていきたいですか?
「発酵食を台所に取り戻す♪」ことを軸に、ハードとソフトのものづくりをさらに強化していきます。人々の発酵に対する意識のスイッチを押したり、生活を変えたり、どれだけマス(「mass」=「大衆」)にアプローチしていけるかが大切だと思っています。
発酵食堂カモシカには、健康な人がより健康になるために来店されることが多いです。それはそれでいいけど、発酵が嫌いな人や興味のない人の意識をオセロのように変えていきたいです。
また、次の世代につなげたいとも思っています。自分の代だけで終わるのはさみしいです。二代目、三代目の成熟度に期待していて、今、次につなげることをやっていかねばならないと思っています。 発酵は世界に誇れる文化なので、世界ともつながりながら展開していきたいと考えています。

−これから起業する人へ、起業する前にやっておくべきことはありますか。
時間と経験が最大の価値だと思います。本当にやろうとおもうのであれば出来るだけ早くやってみることの方が大事だと思います。 また細部に入るまえに、事業のメッセージ、コンセプト、何を価値として出そうとしているのかを言葉に落とし込むことも大事だと考えています。
−最後に、これからの時代に、起業家を目指す女性にメッセージをお願いします。
大変なこともたくさん待っていると思いますが、自分の人生を意味ある形にするために、起業は素晴らしい挑戦だと感じています。是非がんばってください。
−ありがとうございました。

今回は、近畿財務局・大津財務事務所の小宮山さんにもご参加いただき、インタビューを行いました!
関さんに一問一答
経営する上で一番大切なことは?
オンリーワンであり続けること
座右の銘
大事なことを大事にする。
京都のおすすめスポット
東寺のガラクタ市 古いものが好きで。
(聞き手:近畿財務局京都財務事務所 上田氏、大津財務事務所 小宮山氏、ブルームマネジメント 伊藤)
発酵食堂カモシカ
公式ウェブサイト:発酵食堂カモシカ