【法人と個人事業主どっちを選ぶべき?】(伊藤弥生)

こんにちは、クロスオーバーネットワークの伊藤弥生です。

起業する際に、まず、個人事業主として商売を始めるのか、それとも法人を設立するのか、悩むところですよね。
メリットとデメリットを考えて、あなた自身の起業スタイルにあった形態を選んでいただきたいなと思います。

 

個人事業主のメリットとデメリット

 

個人事業主のメリットは、なんと言っても手続が簡単、これにつきます。
税務署へ「個人事業主の開業届」を出すことで個人事業主としてスタートすることができます。
もっとも、開業届を出さなくても商売をしていれば所得税が発生し、開業届の提出の有無にかかわらず確定申告をする必要がありますので、究極的には届出もいらない、ということになります。それくらい気軽にスタートできるのが個人事業主

 

また、個人事業主は、年に一回所得税の確定申告を行うことになります。
確定申告では、一年間の売上金から、経費を差し引き、もうけ(これを税務上、「所得」といいます)を計算し、この所得に一定の調整を加えて、納めるべき税額もしくは還付されるべき税額を算出します。

 

この際、帳簿づけ(取引を記録していく場所のことですね)が必要になりますが、こちらについても法人に比べて計算は簡単なので市販のソフト等を駆使して自分で行うことが比較的簡単です。

 

税務署も確定申告の時期になると「確定申告相談コーナー」を設けていて、申告書の書き方など相談することができます(私も相談員としてかり出されています!)。ある程度まで自分でやって最後は税理士や税務署職員にチェックしてもらうことができるんですね。

 

このあたりがメリットではありますが、もちろん、デメリットもあります。

 

まず個人事業主に係る所得税は累進課税です。
所得が増えるほど、税率が上がっていきます。
例えば億万長者であれば、所得税・住民税を合わせて所得の半分以上(55%)が税額となってしまうのです!手残り額が少なくなるのはちょっと寂しいですよね。

 

この点、法人の場合は税率が固定されているので最大でも税率は23.4%(平成29年10月現在)で、軽減税率が適用される資本金1億円以下の中小法人であれば、住民税等を考慮に入れてもその程度になります。
稼いでいる人にとっては手残り額を増やすという意味で法人設立の方が有利ですね。

 

また、法人であれば得られる税務上のメリットも多く、税金のことを考えると個人事業主の方が不利に働くことが多くなります。

 

さらに、信用面で不利に働くこともあります。
特にBtoB(法人向けへの営業)を考えている場合、取引条件として法人であることが求められることが多いです。
例えば、百貨店に商品を納品したい、大手旅行代理店と組んでサービスを展開したいと考えている場合は、個人事業主では厳しいかもしれません。

 

法人のメリットとデメリット

 

法人のメリットは、やはり税務上受けられる恩恵が大きいということです。
個人事業主の場合、所得から税金を差し引いたものが生活費(自分の給料)となるのに対し、法人の場合は自分への給料を経費にすることができます。もちろん、給料は所得税の対象となりますが、「給与所得控除」という控除があり、ざっくりと計算すると、自分への給与を除く前の所得が同額であれば手元に残る生活費は下図の通り、個人事業主に比べて大きくなります。

 

 

その他、様々な節税対策や税務上の恩恵もありますので、税金面から考えると法人設立にメリットがあります。

 

そして、信用面でもプラスに働く点は上で述べたとおりです。

 

ただ、デメリットもあります。
まず、設立時に時間・費用の面で手間がかかるということです。
法人の設立時には登記費用もかかりますし、税務署だけでなく、都道府県にも届出を出さなくてはいけません。
さらに、社会保険(厚生年金保険・健康保険)の加入も強制となり、保険料の支払負担が増加します。

 

そして、設立後も事務負担は増えます。個人事業主と異なり、帳簿付けや確定申告書の作成も複雑になるので自分自身で行うのはかなり厳しくなります。また、赤字であったとしても年間7万円の法人住民税が発生しますし、仮に会社を解散させるにも登記費用がかかってきます。
もちろん、これらの作業の代行を専門家に依頼することもできますが、その際には相応の費用がかかってきますよね。

 

作るのも畳むのも、結構なお金がかかるのが法人ですね。

 

所得700万円を目安にして

 

では、どちらを選んだら良いのか。

 

税理士の目から見て、個人事業主と法人の分かれ目になるのは、所得700万円くらいかなと考えています(専門家によっていろんな考え方があると思いますがざっくりこのあたりが分水嶺だと私は考えています)。
税金や社会保険をひっくるめてキャッシュが手元にいくら残るのか、という視点で捉えると所得が700万円を超えたら法人の方が有利になる感じですね。

 

設立初年度からある程度のもうけが期待できるのであれば、法人で。
そうでないならば特段の事情がない限り、個人事業主でこぢんまりと開業し、その後の成長に合わせて法人成りを考えれば良いかと思います。
具体的には、月々の売上金から経費を引いた後の残りであるもうけが60万円を超えたあたりで法人化を視野に入れていけば良いでしょう。

 

公認会計士/税理士 伊藤弥生