こんにちは、クロスオーバーネットワークの八ツ元優子です。
今回は、弁護士の立場から、「退職時に競業避止義務の誓約書を求められたら?」という場合を想定して、競業避止義務ついて書かせて頂きます。
以前、ブログで競業避止義務を書かせてもらったところ、実際、相談を受けたり・・・と反響があったので、また、競業避止義務について書かせてもらいます。
誓約書にサインを求められたら・・・
あなたは、美容室に務めていますが、その美容室を辞めることにしました。
あなたは、早速、美容室の経営者に、「辞めさせてもらいます。」と話しました。経営者は「わかりました。じゃあ、この誓約書にサインして下さい。」と誓約書を渡してきました。
誓約書には『私は、退職後10年間、同一県内の同業他店に就職したり、独立開業しないことを誓約します』と書かれていました。つまり、あなたは、退職時、競業避止義務の誓約書へのサインを求められたのです。
実は、あなたが美容室を辞めるのは、同一県内の隣町に自身の美容室を開業するためなのですが、誓約書にサインしなければならないのでしょうか?
結論は、NO!断固拒否してください。
競業避止義務
今回のテーマである競業避止義務とは、労働者が『使用者と競合する企業に就職しない、或いは、自ら使用者と競合する事業を営まない』義務をいいます。
在職中には、労働契約に基づく信義誠実の原則により、一定の範囲で、労働者が競業避止義務負うことがあります。
では、退職後も、競業避止義務を負うのでしょうか?
先の例でいうと、美容室に務めていたあなたは、退職後も美容室を開業しないという義務を負うのでしょうか?そして、誓約書にサインする義務を負うのでしょうか?
退職後の競業避止義務
退職後の競業避止義務についての判例として、平成22年3月25日の最高裁判決があります。
誓約書を求められたという事例ではないのですが、この最高裁判決の事例は、
『退職後の競業避止義務に関する特約等の定めなくA会社を退職した元従業員において、A会社と同種の事業を営み、その取引先から継続的に受注した行為が、A会社に対する不当行為に当たらないとされた事例』です。
つまり、退職した元従業員はA会社に対し競業避止義務を負わない(だから、不当行為には当たりません)とされた事例です。
平成22年3月25日の最高裁判決
では、この最高裁判決は、どういう理由で、退職した元従業員がA会社に対し競業避止義務を負わないという結論を導き出したのでしょうか?
この最高裁判決は、以下の点を指摘し、元従業員の行為は不当行為には当たりませんよ(=元従業員は競業避止義務を負いませんよ)との結論を導き出しました。
① 元従業員がA会社の営業秘密に係る情報を用いたり、その信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったものではない
② 元従業員において退職直後にA会社の営業が弱体化した状況を殊更利用したともいえない
ここで注意しておきたいのは、この最高裁判決の事例では、A会社と元従業員との間に、退職後の競業避止義務に関する特約等の定めはありませんでした。A会社に競業避止義務に関する就業規則があったり、A会社と元従業員の間で競業避止義務に関する誓約書が取り交わされていたり、という事実はなかったようです。
この最高裁判決は、競業避止義務に関する特約等(誓約書等も含むと、私は考えます)が無い場合において退職後の元従業員に上記①②を理由として、競業避止義務を認めませんでした。
元従業員が、もし、競業避止義務を負う誓約書にサインしていたら結論は変わっていたかもしれません。結論は変わらなくても、「誓約書にサインして、競業避止義務を負うこと自分で覚悟したよね?」と、少なくとも、元従業員に不利になる事実として捉えられていたと思います。
皆様、「お世話になった会社だし、言われる通り、誓約書にサインしておこう」「ここで(退職時)揉めるの面倒だな。サインしちゃおう」など、安易に、競合避止義務を認めるような誓約書にサインしないでくださいね。
ここがポイント!
1. 退職時、競業避止義務を負う内容の誓約書にサインしない
2. 元勤務先の顧客情報を盗んでそれを利用したり、元勤務先の悪い噂をでっち上げたりする方法で、新たに営業しない
弁護士 八ツ元優子