こんにちは、クロスオーバーネットワークの八木香織です。今回のテーマは、採用時に雇用契約書を作成しなかった時、後からでも作成した方がよいのかということについてお話します。
はじめに
新しく従業員を雇い入れる際には労働条件について、雇用する側される側の双方がきちんと確認しておくことが、後のトラブルを防ぐために非常に重要です。
労働条件を確認する重要な書類として「労働条件通知書」と、これと似通ったものとして「雇用契約書」があります。この二つは内容こそ似ていますが、その法的意義は全く異なるものです。しかし、混同されていることが多く、それが時にトラブルの原因になっています。
そこでまず「労働条件通知書」と「雇用契約書」の違いについてお話します。
労働条件通知書と雇用契約書の違い
「労働条件通知書」は、労働基準法等の労働関係法令に基づくもので、従業員を雇い入れる際には、労働条件を記載し必ず交付しなければなりません。対して「雇用契約書」は民法で定められた雇用契約の内容を文書にしたものですが、契約は口頭で成立し文書の作成は義務付けられてはいません。
この二つ書類の違いは作成義務以外に、「労働条件通知書」は事業主から労働者に対する一方的な通知であり、その署名・押印も事業主だけで足りるのに対して、「雇用契約書」が事業主と労働者の双方の同意と署名・押印が必要とされることにあります。
雇用契約書は交わすべきか
労働に関するトラブルは採用時に言われたことと違うという「言った、言わない」の類のものがほとんどです。
このようなトラブルを防ぐためには、事業主からの一方的な通知である「労働条件通知書」ではなく、双方が確認し同意して交わされる「雇用契約書」を交わすことが大切になります。
もちろんこれら書類を二種類作成する必要はありません。必ず記載しなければ内容は労働基準法で定められており、同じものなので「雇用契約書」だけを交わすことで足ります。
雇用契約書は後からでも交わせるのか
このようにトラブルを防ぐのに有効な「雇用契約書」ですが、もし採用時に作成してなくても、今からでも作成することができます。
この場合に注意することは、雇用契約書に効力発生日として採用日を明記することです。例えば採用日が4月1日で、雇用契約書の作成日が7月31日としたら、契約書の日付欄は作成日の7月31日とし、そして効力発生日が採用日の4月1日である旨を追記します。
おわりに
労務トラブルは、単に当事者との問題にとどまらず、他の従業員の士気に係わり、更には事業運営にも影響を及ぼします。労務トラブルを防ぐ最初の手立てが「雇用契約書」であるといえます。雇用契約書は今からでも作成できるのですから、後のトラブルを防ぐために、その作成を検討してはいかがでしょうか。
弁護士 八木香織