私は公認会計士・税理士として起業支援、特に女性の起業支援に注力してきました。すでに10年以上になりますが、その間起業を取り巻く環境は随分と変わりました。
かつて多かったのは「生業(なりわい)型」のビジネスでの起業です。生活に密着するビジネスを比較的小規模に運営していこうというものでした。育児や家庭生活と両立できること、開業資金がそれほどかからず失敗しても破産したりしないことが大切でした。2017年3月に「働き方改革実行計画」が策定され、実質上副業が解禁されたことも追い風となり、好きなことで気軽に起業したいという人が増えたように思います。

その後、アップルやグーグルのような社会に変革を起こし巨額の利益をあげる会社を日本にも誕生させようという風潮が強くなり、政府や自治体の後押しもあり、スタートアップといわれる起業が注目されるようになりました。スタートアップとは、社会に変革を起こすようなビジネスモデルをもつ起業家が、巨額の資金の投資先を探している投資家と結びつき、誕生間もない会社に巨額の資金を提供してもらい、短期間で大きな会社にしようとする起業です。2018年6月から経済産業省が開始したスタートアップ支援プログラム「J-Startup」も後押しとなり、今やスタートアップを標榜する起業家は少なくありません。

また、社会課題解決型のビジネスも増えています。「フードロス削減」や「発展途上国の貧困解決」等社会が抱える問題をビジネスで解決しようとするものです。2015年9月に国連総会で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されたこともあり、ソーシャルな視点を持つ起業も増えた気がします。

これらスタートアップやソーシャルな起業はとても大切だと思います。でも、そのことで生業型のビジネスでの起業の価値がなくなる訳ではありません。自分の望む起業が自分の進むべき道ですよね。
公認会計士・税理士 伊藤弥生